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2023/09/16 14:52
こんにちは、ワイズロード船橋店の高橋です。
今回はTREKのMADONE SL GEN 7のご紹介です。
目次
新型MADONEの開発にあたって供給先のプロチームの選手達から前作よりもさらに軽く、さらに快適にという要望がありました。
また、TREKは上記2つの要求を達成しつつ前作よりも空力性能の高いバイクを開発しなければなりませんでした。
TREKの過去のバイクを振り返るとデイモンリナード氏(世界でもトップクラスの空力性能を誇るSYSTEM SIXやS5の開発に携わった有名な空力エンジニア)が監修したSPEED CONCEPTや某ドイツ誌の風洞実験でリムブレーキ史上最速と言われていたMADONE9.9、2017年のトレックワールドで展示されたコンセプトバイクがあります。
これら全ての設計思想の良いとこ取りをしたのが新型MADONEです。
TREKの研究開発には主にHEEDSというソフトウェアを使用していましたが新型MADONEの開発にあたり前述したこれまでの膨大なデータから最適なフレーム設計を人力で探索するのは難しく新しいITソリューションが必要でした。
TREKは効率良く開発を進めるために使用するソフトウェアの見直しを行い、新たにSTAR CCM+という解析ツールとHPCソリューションのscale Xを取り入れました。
これらの導入により人力作業だった部分を自動化することでより精度の高いデータをPC上で導き出せるようになりました。
2021年にUCIのフレーム設計に対する規制が緩和され、従来よりもさらに横方向に薄い(アスペクト比の高い)バイクを開発できるようになりました。
そのため規制緩和前にローンチされたバイクと規制緩和後にローンチされたバイクとでは10~15wも空力的な差があることがほとんどです。
空力の良いバイクを選びたいと思ったら新UCIレギュレーションに対応しているかチェックするべきでしょう。
新型MADONEもこれまでと同様にサンディエゴの低速風洞実験施設(LSWT)を使用しています。
LSWTではCANNONDALEの新型SUPERSIX EVOやFELTのAR ADVANCED、航空機や陸上競技の研究開発に使用されています。
風洞実験では公式のプロモーションでもあったようにフレームだけでなく、ライダーとバイクが組み合わさることで空力性能を発揮できるような設計探索をしました。
TREKのエンジニアはペダリングマネキンを使用することで計測条件を一定に保っています。
ISO SPEEDを継ぐギミックとしてISO FLOWを新型MADONEに搭載しました。
ISO FLOWは前述した開発のプロセスによりシートチューブ上端に穴を設けることで空力面ではフレーム後方に発生する負圧領域に乱気流を送り込むことでdrag(圧力抵抗)削減と乗り心地面では最大で8mmのしなりを生かしたフレックス効果の向上を兼ねるギミックです。
ISOFLOWをSTAR-CCM+で可視化すると下の図ようになります。
ISO FLOWがフレーム後方に青い乱気流を送り込んでいるのがお分かりいただけると思います。
最新のバイクで空力と乗り心地を一つのギミックで担うことができるのはISO FLOWだけではないでしょうか。
ちなみにISO FLOWにフレックス効果があるとはいえ他の部分がガチガチになっている訳ではなくフレーム全体が垂直方向の振動をいなせるような基礎設計になっています。
下の図はGEN6(黄色)とGEN7+ノーマルポジション(赤色)、GEN7+新ポジション(黒色)をヨー角±20度での空力性能をシミュレーションした結果です。
GEN7+新ポジションの抵抗値が低くなっているのが一目瞭然です。
最終的にGEN7では旧型と比較して新型は45km巡航時で19w削減により60秒速いとされています。
19wのうち半分以上がISO FLOWによるもので残りの内訳は3分の2がブラケット部を狭めた新しいポジション、3分の1が新UCI規定にならったBBやヘッドチューブの形状による影響とされています。
新型MADONEは一体型ハンドルの導入と調整式のISO SPEEDを廃止することで軽量化をしています。
システム全体でSLR/SLそれぞれにおいて旧型比でおよそ300グラム軽量化されています。
店頭在庫のSLの52サイズのブラックは下の画像の状態(ホイールのリフレクター、スプロケガード、ブレンダー込み)で8.54㎏です。
新型MADONEはSLR/SLにおいて形状もデザインも全く同じなため遠目で見ただけだと区別がつけられません。
LAB71や DOGMA Fといった旗艦モデルにはそれぞれ特別なデザインを施すことで下位モデルとの格差を生んでいます。
MADONEではそういったグレード分けをしていないためセカンドグレードでも十分に所有欲を満たせると思います。
カーボンのグレードこそ変わってはしまいますがレースでコンマ数秒を争う訳ではないからトップグレードまではいらないけど性能が良いバイクが欲しいという方や限られた予算の中で高スペックなバイクが欲しいという方には間違いなくオススメできます。
付属するRSLハンドルは冒頭で解説したLSWTでの風洞実験と人間工学に基づいた設計で速くて快適で軽いハンドルです。
上ハンが薄く、バックスイープしていて握りやすいのと52サイズではブラケット部が370mm、下ハンが400mmと特殊なサイズ感になっています。
個人的には価格帯からすると普通のアルミハンドルでも良いような気がしますがここまでの流れを踏まえるとGEN7の空力の節約はISO FLOWの次にライダーのポジションが大きく影響するため、SLでSLRと同じレベルの空力を発揮するためにはSLRで採用しているMADONEハンドルに近い形状のRSLハンドルを搭載する必要があったのではないかと考えます。
おなじみのブレンダーマウントも付属品となっています。
サドルはAEOLUS COMPというショートサドルで幅は155mmとなっています。
しなりが生まれやすい形状が特徴です。
また、サドルの座面裏側にはダボ穴がありリアライトなどをマウントできます。
ホイールは定価約16万円ほどするAEOLUS ELITE 50とタイヤはR3が付属しますがクリンチャー仕様のためチューブレスレディにした方が良いでしょう。
リムとタイヤがツライチになっているのも空力的に良いです。
公式サイトでは最大タイヤ幅は32mmまでとのことなので太めのタイヤを履いてみるのも面白いかもしれません。
研究開発に相当なコストをかけているはずなのにカーボンの素材が違うだけでここまで安い新型MADONE SLはミドルグレードのベンチマークになることでしょう。
違いが分かりずらい昨今のハイエンドバイクですがTREKのように技術資料の一部を公開してくれるとスペックでバイク選びをする方には大変参考になると思います。
気になる方はお問い合わせください。