【空力徹底】TDFプロ選手のTTバイクから見る「ハンドル周りのひと工夫」
by: 佐野 隆

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今年もツール・ド・フランスが始まりましたが、個人タイムトライアルは初日の1ステージのみと少し物足りない感じで残念です。

 

今回トップタイムを叩きだしたローハン・デニス選手は55.446km/hのツール史上最速タイムで勝利しましたが、94年のツールでは「エアロ番長」ことクリス・ボードマン選手が初日プロローグで55.152km/hという当時の最速タイムを記録したときは、2位以下とのタイム差が圧倒的で異次元の走りでしたが、今回のTTでは2位以下のタイムは僅差でしたので全体のスピードアップを強く感じます

 

この近年のスピードアップの原因は、運動生理学やトレーニング方法も発展ありますが、機材面の進化の方が遥かに影響が大きいと言えます。

 

すでに来期2016年モデルの発表が始まっていますが、特にエアロ系のカテゴリーは、各メーカーの研究開発が一層過熱しています。

空力的に狙って設けた凹凸や突起物以外は、空気抵抗を増加させる原因となるため、フレームと部品とのインターナル(内蔵)、インテグレーション(一体)化が進み、バイク全体の外見が非常にスッキリしているものが多くなりました。また、さまざまな解析技術が用いられ、一見すると自転車とは思えない特殊な造形をしているバイクも多くなっています。

 

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photo:引用元(http://velocitysportscycling.com/bike-fit-improves-performance/)

写真:空気の流れをシュミレーションしたもの。ハンドル周りは最初に空気の流線に影響を与えるため、最重要である。

ただ残念な事に、技術を駆使しバイクを用意しているメーカー側に対し、現場のメカニックや選手はあまり気にしていない場合も多く、エアロダイナミックスの取組みにはかなりの温度差があるようです。

 

ここから本題です。

最近のTTバイクを語る上で、メンテナンス性や変速スイッチの優位性からDi2(電動コンポーネント)は欠かせません。

またエアロ的にも、ハンドル周りの造形の自由度から空気抵抗の軽減にも一役買っているのですが…。

 

 

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photo:引用元(http://www.bikeradar.com/road/gear/article/tour-de-france-2015-time-trial-tech-gallery-44685/)

写真(上)(中)(下):Di2の配線に必須の部品ジャンクションA(以下JC-A)。

Di2部品のJC-Aは、通常ハンドル周りに取付ける仕様になっているが、このように無造作に取付けてしまうと見た目の悪さよりも空気抵抗への影響が気になります。

 

ちなみにJC-Aがどのくらい空気抵抗を増加させスピードに影響するか簡単に計算してみますと

このJC-Aを一辺3cmの正立方体と仮定し、優勝したデニス選手の時速55kmで走行した場合では

 

Fd=Cd*S*ρ*V2/2

 

Fd:抵抗(N)

Cd=1.02:抗力係数

S=0.0009:前面投影面積(m2)

ρ=1.225:空気密度(kg/m3)

V=15.28:速度(m/s)

以上を計算すると

Fd≒1.132(N)

これをパワーメーターなどで身近な単位の動力(W)に換算すると約2.1Wとなります。

 

以下は、自由度の高さを利用しDi2の配線とJC-Aの取付位置を工夫した様子です。

バイクはキャノンデールSLICE RSで通常はステム上面「Si」の文字部にJC-Aを取付けることが多いですが…。

 

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写真(上):ハンドル周りの配線を本来のJC−Aから内蔵JCに変更し、DHバー内部への収納を可能とした。

写真(下):JC-AはステムからFD付近に移動した。バッテリー残量表示や変速調整なども機能します。

 

 

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写真(上):ハンドル周りの配線に使用した内装ジャンクション(シマノSM-JC41/価格2,531円+税)

写真(下):ジャンクションAのフレーム固定時に使用したアダプター(REC-MOUNTアダプター/価格1,500円+税)

 

 

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photo:引用元(http://road.cc/content/news/156238-tour-de-france-bikes-2015-rohan-dennis-bmc-timemachine-tm01)

写真:優勝したローハン・デニス選手のバイク。

綿密な準備をし、ステージ優勝を狙っていたと言う通り、完全なワンオフの特注ステムを採用し、Di2ジャンクションの処理は完璧に施されている。このようにTTスペシャリストやエース級のバイクは、扱いが他の選手と違う様ですので少し安心しました。

 


 

また、欠かせない部品のサイクルコンピュータ(以下サイコン)ですが、最近は大型化が進み取り付け方次第では大きな抵抗となります。

 

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photo:引用元(http://www.bikeradar.com/road/gear/article/tour-de-france-2015-time-trial-tech-gallery-44685/)

写真(上)(中)(下):大型化したサイコンは行き場を失った。Di2部品同様に見た目よりも空気抵抗への影響が気になる。

 

 

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写真(上)(中)(下):サイコンからステムとフレームへと一直線に高さを合わせた様子。

 

サイコンはフレームの中に隠したり、位置を変える事が出来ませんので、空力のポイントは「前方はから見たときバイクと一体化してはみ出していない」「DHポジションをとった腕の中に納まっている」かと言う事になります。

 

ヒルクライムなどでは軽量化のため10gでもこだわる場合が結構あると思います。

それと同様に平地のスピードを徹底するには、空気抵抗の10gも見逃す事はできません

多価だか1〜2Wの軽減かもしれませんが、「塵も積もればなんとやら」と言う事だと思います。

 

 

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