20

連載コラム⑧【同じロードなのに、何が違う?】エンデュランスロードとは何だ?ジオメトリを知るとカラクリがわかる。
by: 水澤 耕一

ロードバイクを選ぶとき、どこを見ますか?

デザイン、重量、変速機、ホイール。そして価格。

もちろん、どれも大切です。しかし、似たようなパーツが付いたロードバイクでも、乗ると性格が違うのはなぜでしょう。

その手掛かりになるのが、メーカーの商品ページにある「ジオメトリ表」です。

角度や長さが並んだ、少し難しそうな表。

実はここに、メーカーが考えた「乗り手をどこに乗せ、車輪をどこに置き、どう走らせたいか」が表れています。

今回はちょっと細かな話になるのですがこれを理解するとどのメーカーのバイクもどんな乗り味か想像することができるようになります。

今回はTREKのMadone〈マドン〉とDomane〈ドマーネ〉を例に、その面白さをご紹介します。

マドンとドマーネの比較展示

レースとエンデュランス。使う人のレベルが違う?そうなの??

Madoneは、レースでのパフォーマンスを追求するロードバイク。

Domaneは、長時間の走行やさまざまな路面で、快適性と効率を両立するエンデュランスロードです。

「Madoneは上級者用、Domaneは初心者用」と分けてしまうと、少し違います。

経験豊富な人でも、長い時間を心地よく走るためにDomaneを選びます。レースに出なくても、Madoneの走りやデザインに惹かれる人はいます。

どちらが上か下かではなく、どんな走りを目指しているか。

その違いは、フレームの形や装備だけでなく、寸法にも表れています。

 

 

同じMサイズでも、これだけ違います。

今回は、Madone Gen 8とカーボンDomane Gen 5の、いずれもMサイズを比較します。

項目 Madone Gen 8/M Domane Gen 5/M
スタック 546mm 575mm
リーチ 384mm 374mm
ハンガードロップ〈BB下がり〉 70mm 80mm
フロントセンター 582mm 604mm
チェーンステー長 410mm 420mm
ホイールベース 981mm 1,011mm
ヘッド角 72.9° 71.2°
フォークオフセット 45mm 53mm
トレイル 58mm 63mm

※TREK公式ジオメトリ表を基に、長さをmmへ換算。比較用のサイズ例であり、同じM表記が個人への適合を保証するものではありません。

全部覚える必要はありません。

まずは姿勢に関わる二つ。そして、自転車の性格を考えるうえで私が特に注目している二つを見ていきましょう。

スタックとリーチ。姿勢を作る「土台」を読む。

クランクが回転する中心を、BBと呼びます。

そのBBを基準として、ヘッドチューブ上端までの縦方向の高さがスタック、横方向の長さがリーチです。

フレーム前側の位置を、共通の基準から比べる数字だと考えてください。

今回の比較では、DomaneはMadoneよりスタックが29mm高く、リーチが10mm短くなっています。

つまり、フレームの前端が高く、手前にあるのです。

これは、Domaneが上体を起こした姿勢を作りやすい方向であることを示しています。

ただし、実際に手を置く場所は、スペーサー、ステム、ハンドル、ブラケットの取り付け方などでも変わります。

スタックが29mm違うから、手の位置も必ず29mm違う、という意味ではありません。

フレームの数字は、ポジションを作る出発点。

それを知っておくと、商品写真の印象だけでは分からない違いが見えてきます。

geometry-bb-corrected

私が注目する数字① ハンガードロップ。

次は、ハンガードロップ。ジオメトリ表では「BB下がり」や「BBドロップ」とも表記されます。

前後輪の車軸を結んだ線から、BB中心がどのくらい下にあるかを示す寸法です。

数値が大きいほど、BBは車軸に対して低い位置になります。

今回の数値は、

  • Madone:70mm

  • Domane:80mm

DomaneのBBは、車軸を基準にすると10mm低く配置されています。

ペダルを踏む場所が、車輪に対してどの高さにあるのか。同じように見えるロードバイクでも、ここに違いがあります。

サドル高などをそろえて考えれば、BBを低く置くことは、乗り手を車軸に対して低い位置へ配置する方向です。落ち着いた挙動を考えるうえで、一つの重要な要素になります。

一方で、BBを低くすれば地面との余裕も考える必要があります。実際のペダルクリアランスには、タイヤ外径やクランク長、ペダルの形なども関係します。

また、BBの実際の地上高はタイヤ外径によって変わります。

「ハンガードロップが大きい=地面から必ず低い」と、車種をまたいで単純比較はできません。

低ければ優秀なのでも、高ければ速いのでもありません。メーカーがどんな使い方を想定し、どこへ乗り手を配置したかを見る数字です。

bb-drop-explained

私が注目する数字② フロントセンター。

もう一つが、BB中心から前輪軸までの寸法、フロントセンターです。

ハンドルまでの距離ではなく、踏む場所に対して、前輪をどこへ置いたかを見る数字です。

今回の比較では、

  • Madone:582mm

  • Domane:604mm

Domaneの方が22mm長くなっています。

先ほどのスタックとリーチでは、Domaneのフレーム前端は「高く、手前」にありました。

しかし、前輪はBBからより離れた位置にあります。

手を置く場所の土台は近くても、前輪まで近いとは限らない。この位置関係の違いでバイクの乗り味が変化するのです!

ここが、ロードバイクの設計を読む面白いところです。

前輪と乗り手の位置関係は、前輪への荷重配分や操縦感を考える手掛かりになります。ただし、実際の荷重は乗り手の姿勢、サドル位置、後輪の位置なども含めて決まります。

「長いから安定」「短いから曲がる」と一つの数値で結論を出すのではなく、ほかの寸法との組み合わせを見ていきます。

※フロントセンターは掲載図の測定方法も確認してください。本稿の数値はTREK公式表に従い、水平投影距離とは区別しています。

front-center-explained

後輪の位置も違う。だから、全体の性格が変わる。

BBから後輪軸までのチェーンステー長は、Madoneが410mm、Domaneが420mm。

前後輪の車軸間の距離であるホイールベースは、Madoneが981mm、Domaneが1,011mmです。

Domaneは、前側だけでなく後側の寸法も含めて、前後輪の間隔を長く取っています。

ハンドルの高さだけでなく、車輪の間に乗り手をどう配置するか。その全体像が違うのです。

なお、フロントセンターとチェーンステー長を単純に足しても、ホイールベースにはなりません。BBが車軸の線より下にあり、それぞれの寸法の測る向きが異なるためです。

数字の関係まで分かってくると、ジオメトリ表が少し身近になります。

ヘッド角だけでは、ハンドリングは読めません。

MadoneとDomaneでは、ヘッド角やフォークオフセットも異なります。

ここで一緒に見たいのが、トレイルです。

横から見たとき、操舵軸の延長線が地面と交わる点と、前輪の接地点との前後方向の距離を指します。

ヘッド角、フォークオフセット、車輪の半径に関係し、ハンドルの復元傾向や操舵感に関わる要素です。

今回の公式値は、Madoneが58mm、Domaneが63mm。

これも、大きい方が優秀という数値ではありません。

メーカーは複数の寸法を組み合わせて、狙った操縦性を作っています。タイヤやハンドル、乗り手の荷重まで加わって、実際の走行感になります。

head-angle-offset-trail

クロスバイクにドロップハンドルを付けたら、ロードになる?

ここまで読むと、この話も少し違って見えるのではないでしょうか。

クロスバイクへドロップハンドルを取り付ければ、見た目と手を置く場所は変わります。

しかし、ハンガードロップ、フロントセンター、チェーンステー長、ヘッド角など、フレームとフォークが決めている寸法は変わりません。

ハンドルを替えても、車輪とBBの位置関係までは変わらないのです。

さらに、ドロップハンドルではブラケットまで手の位置が前へ出ます。元のフラットハンドルと同じ感覚で交換すると、想定より遠い位置を握ることもあります。

クロスバイクにもロードに近い設計のものがあり、一括りにはできません。ドロップ化を楽しむカスタムそのものを否定する話でもありません。

ただ、ドロップハンドルが付いていることと、ロードとして車体全体が設計されていることは同じではない。

変速・ブレーキの互換性とともに、完成したときの姿勢や使い方まで考えて相談したいカスタムです。

fx-drop-vs-madone

Madoneを楽な姿勢にすれば、Domaneと同じ?

ロード同士でも、考え方は同じです。

ステムやスペーサーで、MadoneとDomaneの手の位置を近づけられる場合はあります。

でも、それでホイールベースやハンガードロップ、前輪の位置まで同じになるわけではありません。

調整で合わせられる部分と、車体選びの段階で決まる部分がある。

だからこそ、「ハンドルが高いからエンデュランス」「低いからレース用」と、見た目だけでは整理できないのです。

乗り味は、ジオメトリだけでも決まりません。

一方で、寸法が分かれば乗り味のすべてが分かる、というわけでもありません。

フレームやシートポストの構造、素材の使い方、ホイール、タイヤと空気圧なども関係します。

例えばカーボンDomane Gen 5は、従来のIsoSpeedを省き、フレーム・シートポスト・タイヤを組み合わせて快適性を追求しています。

「Domaneなら、どの世代も同じ構造」とは限りません。

前回のタイヤ記事でご紹介したように、タイヤも走りを変える大きな要素です。

ジオメトリは、そうした自転車全体を理解するための土台として読んでみてください。

次の商品選びでは、設計図も見てみませんか。

まず、スタックとリーチで姿勢の土台を見る。

ハンガードロップで、車輪に対するBBの高さを見る。

フロントセンターとチェーンステー長で、踏む場所に対する前後輪の配置を見る。

そのうえで、ヘッド角やトレイルへ目を向ける。

比べる際は、世代、サイズ、単位、寸法の測定方法を確認してください。TREKの公式表は、特記がなければ長さがcm表記です。

ジオメトリ表を読み始めると、似て見えていた自転車が、それぞれの意図を持った設計として見えてきます。

そして、気になった違いを店頭で相談したり、試乗で確かめたりする。

写真で好きになる。スペックを調べる。設計を知って、もっと乗りたくなる。

次の一台を選ぶ楽しみに、そんな読み方も加えてみませんか。

※掲載数値は2026年10月確認時点のTREK公式情報に基づきます。比較対象はMadone Gen 8とカーボンDomane Gen 5のMサイズです。別サイズ、別世代、Domane ALへそのまま当てはめることはできません。

アフターサポートパック(盗難補償)、自転車サービスパック(ロードサービス&自転車保険プレゼント)

 修理に関するお知らせ

住所:東京都台東区上野3-16-3 鈴木ビル1F&2F
電話番号:03-3836-6168

営業時間:月~金/12:00~20:00
土日祝/11:00~19:00