日本最大級のスポーツサイクル専門店!サイクルライフサポート!
2023/11/26 16:20
事の始まりは11月某日。IRCの営業さんが12月2,3日に開催される「秋ヶ瀬の森バイクロア」に向けたポップアップショップを展開すべく打ち合わせに訪れた日の出来事。
バイクロアといえばどちらかというとオフロード系のイベントに属すると言えるだろう。
小規模なレースイベントのみならず、アウトドアを主体としたアクティビティ、食事やワークショップなど工夫をこらしたマーケットブースも展開される、乗る人も乗らない人も楽しめるイベントだ。
店舗スタッフと担当営業さんがグラベルタイヤの話で盛り上がり始めていた頃、オンロード専門の私はどこか蚊帳の外。「出る幕は無い」と判断し、一歩引いたところで話を聞いていた。
「IRCのタイヤにどんな印象を持っていますか?」という質問をされたが、回答に困った。答えは言うなれば「無」だったからだ。
残念ながら良い評判も悪い評判も私の耳には届いていなかった。一瞬脳裏をフルスロットルのランエボⅣ並みのスピードでよぎったのは「アウト・オブ・眼中」という岩〇清〇のセリフだ。
「IRCのタイヤを使ってみませんか?」という提案も「”オフロードの”タイヤ」と捉え、私は聞き流そうとした。だが別のスタッフが「高橋くんは?」と聞いてきたことが事の発端だ。
そんなこんなで思いがけずすることになった今回のインプレ。
文体がいつもの敬体では無いが、本音を書こうと思うと常体のほうがまとめやすいからだ。この点はどうかご容赦願いたい。
正直今回は少し過激な内容になると思うため、削除覚悟である。個人店ならまだ多少は許されても法人経営の会社でコレはいいのか。少なくとも自分では少し悩むレベルではある。日本のメディアってだいたい良いことしか書かないじゃん?
一応オブラートに包む部分や、敢えて書かないこともあるため、マジに本音を聞きたい場合は是非店頭まで。
前置きが長くなったがインプレをしていこうと思う。
★注意★
書きたい事をほぼ全て書いたら長文になりました。
トピックス
バイク:BIANCHI ARIA
ライダー体重:60㎏
ホイール;MAVIC KSYRIUM SL
交換前のタイヤ:Panaracer AGILEST TLR 28C
偶然にも交換前と交換後がどちらもMade in JAPAN。どっちに転んでも文句を言われそう。
そして過去5年間体重58kgをキープしていた私は最近少し太り体重60kgへ。筋肉の重みであると信じたい今日この頃…。
ちなみに超絶ラッキーなことに、IRCのタイヤが店舗に届いた日に220㎞のライドを終え帰宅したと同時にアジリストがパンク。なかなか都合がいいタイミングでやってくれたものだ。
ホームページを覗くと[TUBELESS RBCC]と[TUBELESS READY S-LIGHT]しか載っていないが、もう1種類「驚異的な耐パンク性」を謳う[TUBELESS X-GUARD]も過去には存在した。
今現在は「更なる性能向上を目指す」として一旦生産を中止しているようだ。
【お知らせ】FORMULA PRO HL TL X-GUARD 生産中止について
AGILEST=TL RBCC
AGILEST LIGHT=TLR S-LIGHT
AGILEST DURO=TL X-GUARD
通常であれば上記の認識で問題ないはずだが、スペックに着目するとこの関係は大きく崩れる。
ホイールよりさらに外側に位置しているタイヤは自転車の一番運動量の多い部品と言って相違ないだろう。
そのため、タイヤにおける重量というステータスは他のパーツの重量とはだいぶ違った作用をする。
同じ28Cで比較するとAGILEST TLRが250gに対し、FORMULA TL RBCCは310g。チューブレスレディとチューブレスの違いこそあれど60gの差はなかなかに大きい。FORMULA TLR S-LIGHTはAGILESTと同じ250g。
重量に着目すると
AGILEST TLR=TLR S-LIGHT
になるのだ。
ちなみにAGILEST DURO TLRはエンデュランスとは言いつつも重量は270g。DUROでもTL RBCCより軽い。
もう1つの問題がAGILEST LIGHTはクリンチャーのみ、28cのラインナップ無し。というところである。
軽さ全振りのこのタイヤと比較するのは果たしてフェアなのか?これはやはり別に考えたほうがいいのか。
この2つが引っ掛かり非常に悩みどころではあったが、選んだのはFORMULAのバリエーションの中でも「オールラウンド」を謳うTL RBCC。同じ中核のラインナップとなるタイヤでひとまず比較することにした。
このタイヤが発表されたのは2019年。私の記憶が正しければこの時期はロードバイクにはチューブレスがまだ浸透しておらず、タイヤメーカー・ホイールメーカーも紆余曲折を繰り返していた言わば「チューブレス黎明期」だったと思う。
チューブレスレディではなくチューブレス。シーラントも必要とせずにタイヤとホイールのみで完璧な気密性を保つべく研究開発が進められた商品が世に出始めた気がする。
しかし、タイヤとホイールの勘合をタイトにすればするほどタイヤの着脱は困難になる。
この頃のタイヤのインプレ記事はだいたい「ホイールとの相性にもよるが….」と書かれている。
扱いに不慣れなユーザーも多かったことも起因していると思うが、「嵌めるのが固すぎてタイヤレバーが折れた」などという書き込みも散見された。ユーザーが四苦八苦する一方、タイヤメーカーは「気密性が損なわれるのでタイヤレバーは使わないで。」という。
絶大な人気を誇るContinentalもGP5000 TLを発表したのは2019年。その後2年の月日を経て、装着も容易に、さらに性能も向上したというS TRが発表されると、徐々にTLの出番は減っていった。こうして淘汰され、製品はより良いものへと進化を続けていくわけだが、果たして同期のFORMULA TL。君はどうかな?
固い!
やっぱ黎明期のタイヤって感じがする!
私とて一自転車屋の店員、素人ではない筈だが、それでも全力で作業してようやくだった。正直、諦めてタイヤレバーを使おうかと考えたくらいだ。
時間もなかったためコンプレッサーで一気にビードを上げてしまったが、気密性は悪くなさそうだった。空気を入れてから家に帰るまでの5時間余りでも空気が抜けている感じは無かった。
そのまま使ってもよかったが、もしもの事があると面倒なので”念のため”程度にシーラントを15mlずつ入れた。
テスト初日。出勤前にサクッとテストライド。
名栗湖までの往復70kmほどの”いつものコース”。テスト走行は走り慣れた道がいい。
タイヤの「硬さ」を感じ取るために、テスト走行時はフロント5.0Bar,リア5.1Barにセットする。
硬めの乗り心地が好きな私としては、しなやかなタイヤであればこの5Bar付近のセッティングで概ねOKなのだが、今回のFORMULA TL RBCCは硬く感じた。
ファーストインプレッションではなかなか不満の残る印象だったが、ここ3日間で450km近く走っており、その疲労もあったのかもしれないと思い、いったん結論は据え置き。
ただし、5Barで硬いことは理解した。そして「このセッティングではこのタイヤのポテンシャルを引き出せていない」という感触もあった。
テスト2日目
タイヤの空気圧は少し落としてフロント4.7Bar,リア4.8Bar。
走り出しから先日との明確な違いを感じる。
しっかりと地面を捉え、無駄なく推進力に変換してくれる感覚があった。1日目では「進まない。遅い。」と感じていたが、2日目では「遅くはない。」という結論に至った。
タイヤセンターに杉目が入っていることが起因している気がするが、路面抵抗が大きく感じた。比較対象はあくまで他社フラッグシップタイヤ(GP5000 STRやAGILEST TLR)のためこんな評価だが、もちろんそれ以外も含めた全てと比較すれば間違いなく「速い」。
懸念していた重量スペックだが、60gの違いはやはり無視できるものでは無かった。
加速時や登りにおいて明らかなレスポンスの悪さを感じる。ここぞ!という逃げのシチュエーションや、逆にライバルのアタックに追従する場合にはかなり足を引っ張ってしまうのではないかというのが率直な感想だ。
グリップに関しては”普通”という評価をするが、これはいい意味のため下記”感覚”の話にてまとめて補足する。
ここまでデメリットのようなものを羅列してしまったが、唯一今まで使ってきたどのタイヤよりも優れていると感じたことがあったため、項目を分けて熱弁させてほしい。
今まで使ってきたどのタイヤよりも優れていたと感じたのは接地面のフィーリングだ。これに関しては数値化することが不可能だと思う。
今どんな路面の上を走っているのか。「砂利が少し浮いている」「細かいひび割れがある」
グリップの限界がどこにあるのか。「まだバイク寝かせられる」「もうそろそろ滑る」といった、言うなれば「タイヤとの意思疎通」が非常によくできるとても扱いやすい印象だった。
限界付近の挙動が把握しやすく、安心してバイクを寝かせることができるためコーナリング時の減速も最小限にすることができる。
路面の状態も感覚で伝わってくるため、接地面の状況は感覚に任せて視線はもっと先のコーナーに向けることができる。
グリップはいい意味で普通という評価をしたが、グリップもまたグリップすればするほど良い。というものでもない。
自転車に限らずタイヤはグリップとスリップのバランスで成り立っている。
仮に”どんなシチュエーションでも絶対に滑らないタイヤ”があったとすればそれを装着した車両は基本曲がることができない。
旋回する時には必ず内輪差が生じ、前輪と後輪の回転数に差が生まれるためである。
極論で言われても…という人にイメージしやすいように説明すると、F1のレースを見たことがあるでしょうか?一般車ではありえないスピードでコーナリングしていきますよね?タイヤのグリップ以外にもダウンフォースやらなんやらで一般車には到底不可能な挙動を実現しているわけですが、パッとF1カーを渡されて扱えると思いますか?という話です。
意識したことがある人は少数だと思うが人は「こうしたらこうなる」という自分のイメージを持って動く。
コーナリングでも「これぐらいバイクを寝かせれば狙ったラインを走れる」というイメージを持って操作するが、そのイメージと実際の挙動があまりに大きくかけ離れてしまうとそれはそれで”扱いづらいもの”になってしまうのだ。
AGILESTはしなやかでグリップが良い反面、感覚との乖離が大きかった。尚且つ厄介なことにAGILESTと私は全く”意思疎通”ができなかった。
そしてこのインプレ記事を書いている最中にちょうどAGILEST FASTのインプレ記事が別のウェブサイトに投稿されていた。
どうやら同じことを感じている人はいたようで、AGILEST FASTはそれが改善されているとか。。。
話がAGILESTに寄ってしまったので本命のFORMULAに戻そう。
”感覚”というものは数値化できないうえに一人一人違っているため、非常に扱いの難しい”目に見えない性能”だ。
IRCはその目に見えない性能を非常にうまく扱っている気がした。ここは大いに評価したい。
インプレ後に初めてカタログに目を通し、驚いたことがあった。
グリップの限界付近の挙動が把握しやすくなる。コントローラブルな性格などの記載がある。
先入観無しに感じたことが、そのまんまメーカーの意図するところだったのだ。素晴らしい。 これには流石に驚きを隠せなかった。
「そんなもの、事前に調べておけよ」と言われそうだが、大体詳しい説明に目を通しても「当社比で転がり抵抗〇%向上!」「耐パンク性〇%向上!」「しなやかな乗り心地が~」といった謳い文句ばかりで見飽きたのだ。
IRCは「こういう性能を付与したい」と思えば、それを実現できる技術力を持ち合わせているのではないだろうか。
私の中で急にIRCの株が爆上がりした出来事だった。
5点満点中で表せば個人的な評価は「3」だ。
”フラッグシップ”を掲げるにしてはどうしてもレスポンスの悪さが際立ってしまう。転がりも軽くは感じなかった。グリップは前述した通り、良い意味で普通。タイヤの硬さは感じるが、これはおそらく路面からの情報を伝達する上で必要だった”剛性”だと思う。
フィーリングという点においては今まで個人的に好きなタイヤのトップを死守してきたGP5000を凌いでNo.1だ。
ペダリングを必要としないダウンヒルレースがあるとすれば、有力候補としてあげるだろう。
AGILESTという好敵手がいる現在、FORMULA TLはなかなかオススメしにくい存在かもしれない。
とはいえ、2021年にはTLR S-LIGHTがAGILEST TLRと同じ重量で打ち出されている。
タイヤの嵌合や重量などのネックな部分が改善されているのかもしれない。
S-LIGHTの性能が気になる。
そんなテストライドだった。
で、終わらない。
S-LIGHTが気になりすぎて夜しか眠れなくなってしまった。
自腹を切ってS-LIGHTを購入した。
ボロボロに言ってしまったが、重さという点以外は結構好印象だったのだ。
ちなみに現在東大和店に展開されているポップアップショップでは、タイヤ2本購入でシェラカップが貰え、アンケートに回答することでサコッシュも貰える。
期間限定『IRC TIRE POP UP SHOP』イベントスタート!IRCお探しならワイズロード東大和店へ!
このサコッシュ、ジッパーもついていてなかなか便利だ。
さて本題に戻ろう。
TLに比べれば圧倒的に装着は容易だった。
簡単にインストールは済んだ。
この時は自宅での作業だったためフロアポンプでビード上げを試みるも、リムの接合部の段差からエアーが抜けてしまい、上手いこと作業は進まなかった。
CO2ボンベを使ってビードを上げて事なきを得たがこれはリムの影響が大きいため、FORMULAがダメというわけでは無いだろう。
シーラントは20mlずつ入れ、空気圧はフロント4.7Bar,リア4.8Barにセットしてテストを行う。
基本的なフィーリングはTL RBCCと同じ。やや硬めの乗り心地で路面からのフィードバックは良い。
やはりトレッドパターンの影響か、転がり抵抗も同じくらい。
肝心のレスポンスは・・・・
非常に良い!
これなら闘える!そう思わせるほどに加速、登坂ともにイイ感じだ。
軽くなったからと言ってタイヤの剛性やグリップは全く犠牲になっていない。
耐久性に関しては多かれ少なかれ落ちてしまっていると思うが、これに関しては致し方無いと割り切るのが吉だろう。
そのデメリットを補って余りあるほどに走行性能は抜群に良い。
今回のテストライドでは道志みちを登り、山中湖を一周。静岡へ繋がる超激坂「三国峠」を下って行ったが、初見の道にも関わらず安心してダウンヒルを楽しむことができた。
5点満点中で表せば個人的な評価は「4」。
良い部分はしっかりと残しつつも、ユーザビリティは良くなり、デメリットは見事に改善されている。
AGILESTに匹敵する軽さを備えつつも、非常に扱いやすく、しっかり速い。レスポンスも良くなり、第一線でも活躍できる性能へと昇華している。
唯一のデメリットはやはり転がり抵抗な気がするが、これはIRCのアンケートフォームに「どんなタイヤを作ってほしいか?」という項目があったため、そこに意見を書かせてもらった。
FORMULA PRO TLR S-LIGHTは、ダウンヒルやコーナリングに不安や苦手意識を感じている人がいれば自信を持って是非おすすめしたい。
このタイヤの扱いやすさにはきっと誰もが驚くのではなかろうか。
タイヤを供給し、数々の功績を収めているEFエディケーションも使用しているのはS-LIGHTだ。
耐久性を掲げるFORMULA PRO TL X-GAURDが無くなった今、決戦用・オールランドとしての立ち位置をS-LIGHT。耐久性・サイクリングとしての立ち位置をTL RBCCにしても良いのではないだろうか。
途中から「タイヤが硬い」という表現は何だか違うように感じ始め、「剛性」という文字に置き換えたが、このタイヤはそう。柔らかくはない。
しなやかで疲れにくいタイヤが欲しい!と言われたならば、FORMULAは勧めないだろう。
ただ、チューブレス入門や安価で性能のいいチューブレスタイヤとしては非常にオススメだ。
情報化社会の昨今。悲しきかな現実は良い製品を作っている人が勝つのではなく、プロモーションが上手い人が勝つ。
今回のIRCもそうだ。製品はこんなにも優れているのに、「見かけないから」という理由で食わず嫌いをするどころか無関心だったのだから。
良いものは良い。それを見極め、お客様に提案するのは我々販売店スタッフの仕事であり、関心を持たせるのは腕の見せどころといえばそうなのだが、もちろんすべての製品を網羅することなど時間的にも金銭的にも難しい。
今回の「無」から始まったテストライドは、ただの製品の評価にとどまらず、自分自身の立ち振る舞いを見返すきっかけにもなった。
長くなったが、これにてIRC FORMULA試乗記を締めようと思う。
読者の皆様、こんな記事を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
またインプレを書く機会がありましたら『バッサリ切っていくスタイル』でレビューしていこうと思います(怒られなければ)のでお楽しみに!
また、今回このような貴重な”きっかけ”を作っていただき、提供までしていただいたIRC 井上ゴム工業株式会社様にも心より御礼申し上げます。